当会の広島西ウインドファーム環境影響評価方法書への意見書を公開します。
考える会を通して、多くの方との議論や専門家の方々の意見を踏まえて書かせて頂きました。

2021年3月10日

電源開発株式会社 再生可能エネルギー本部 

風力事業部 事業推進室 御中

(仮称)広島西ウインドファーム事業 計画段階環境方法書」への意見

特例認定特定非営利活動法人三段峡-太田川流域研究会    

理事長 本宮 炎

                〒731-3813   広島県山県郡安芸太田町柴木1734

                              電話090-3421-3046

※本意見書の要約を禁止します。

●はじめに

 わたしたちは本事業予定地である安芸太田町で活動する特例認定特定非営利活動法人です。本事業予定地(安芸太田町外も含む)は私たちの重要な活動フィールドです。

 年々増加を続け、2019年に国内総設備容量が3,900MWに達する風力発電施設では住民とのトラブルや、自然環境の破壊などの事例が増えています。これは既存の法令や規制では十分に対応できていないことの現れです。かつて国の特殊法人であり、現在も日本を代表する電力会社である貴社は、他の電力事業者の規範となる企業コンプライアンスが求められています。コンプライアンスとは法律として明文化されていなくとも、社会的ルールとして認識されているルールに従って企業活動を行うものです。しかしながら貴社が示した方法書は既存のものと同等であり、貴社の持つ社会的責任を果たしているものとは言えません。

環境影響評価法の趣旨は「国民、地方公共団体から意見を聴き、環境保全の観点から総合的かつ計画的に、より望ましい事業計画を作り上げる制度」です。地域の専門家や私たちは貴社の事業が十分に環境を保全し、他社の見本となる事業計画になる為に労力を惜しみません。事業想定区域や周辺を丹念に歩き、専門家の助言を受け、住民の話を丹念に聴取されることを望みます。

●事業の意義について

(国または県市町計画との乖離)

方法書2-1では国の「第5次エネルギー基本計画」を引き、「なかでも風力発電は、国内の導入ポテンシャルが高く、将来的に大型電源としての活用が見込まれる ことから、その積極的な導入が期待されている。」としています。再生可能エネルギーの導入は望まれるところですが、日本政府による「生物多様性国家戦略2012-2020」には「生物多様性の維持・回復と維持可能な利用を通じて,わが国の生物多様性の状態を現状以上に豊かなものとするとともに,生態系サービスを将来にわたって享受できる自然共生社会を実現する」とあります。広島県「未来へつなげ命の環!広島プラン~生物多様性広島戦略~」(2013年)では基本理念として「生物多様性がもたらす、豊かな恵みを将来の世代に継承できる人間と自然が共生する社会の実現」とあります。

化石燃料から再生可能エネルギーの転換は期待されますが、他の方法による発電施設に比して、陸上風力発電所は発電量が少なく、生物多様性の上で県内有数の森林の棄損に対して見合うものとは考えられません。生物多様性の棄損に対してCO2抑制の効果が十分ではなく、「第5次エネルギー基本計画」および「第4次広島県環境基本計画」の求めるところとは一致していません。

安芸太田町長期総合計画では目指す将来像を「豊かさあふれつながりひろがる安芸太田町」として「県内最高の恐羅漢山をはじめとする山々に囲まれ、美しい自然環境とともに産業や暮らしを築いてきました」としています。私たちの町を囲む山々の景観と自然環境はこの町にとって重要です。長期総合計画後期基本計画策定の際のアンケ―トで町民は、町の誇りとして自然環境(75%、1位)、景観(28%、2位)を上げています。安芸太田町は自然環境を活かした定住(移住)促進や観光振興政策を進めており、自然資源への棄損が大きな本事業は、町の方針(第二次安芸太田町長期総合計画後期計画)にも反し、風車による景観の改変や自然環境の棄損は町の住民にとって許容しがたいものであると指摘します。

(二酸化炭素排出減少の疑問)

方法書2-1に「地球温暖化防止とエネルギーの安定供給に資するクリーンエネルギーの供給」とあります。本事業による最大の発電量は、方法書の通り最大出力154,800kwとして、設備利用率20%とした場合、当該地域の電力会社である中国電力の2018年売電量実績の0.5%に過ぎません。事業想定区域の自然の価値と比較すればあまりにも少ないと言わざるを得ません。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)海外レポートNO. 1021によればフランスの持続可能な環境連盟(FED)は風力発電が「二酸化炭素の排出削減にはあまり貢献しない上、化石燃料の消費増をもたらす」と指摘しています。私たちが中国電力に確認したところ「風力発電の影響によって、化石燃料の使用量を変化させることはなく、過去太陽光発電を含む自然再生エネルギーによって化石燃料の使用量が変化したことを示す根拠はもっていない」との回答を得ました。風力発電施設での発電量に合わせて化石燃料の使用が減らされた場合は温室効果ガス排出の抑制になりえますが、そのような操作はされておらず、排出量削減の効果に疑問がつきます。またエネルギーの安定供給の面では、風力発電は不安的で現在の技術では安定供給の目途が立ってない状態と各電力会社も認めるところです。

 貴社は石炭火力発電の大手です。気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)のマドリード会議でグテーレス国連事務総長は「多数の石炭火力発電を計画・新設している地域がある。『石炭中毒』をやめなければ、気候変動対策の努力は全て水泡に帰す」また、石炭について「唯一にして最大の障害」と発言するように、石炭火力発電の中止が温室効果ガス排出削減の最大の目標となっています。国民が固定価格買取制度(FIT)を許容し、再エネ発電賦課金を支払うのは、石炭火力発電のような二酸化炭素の排出量の多い発電を抑制したいからに他なりません。貴社は石炭火力を推進すると共にFIT制度を活用するのは国民の願いを踏みにじる行為です。

●地域貢献について

説明会資料では地域貢献について言及されました。果たして真の意味での地域貢献となるのでしょうか。方法書に示された最大風力発電所出力154800kwに設備利用率とFIT制度による買取り単価をかけると、20年間累計の貴社の売電売り上げは976億円と予想できます。貴社が得る利益と地域への貢献に過大な格差があれば大企業による一方的な搾取とのそしりを免れません。貴社が社会的要請を満たし地域に貢献するのならば,この問いに関して、環境の保全の見地の意見でなくとも真摯に向き合う必要があると考えます。

(メリット少ない固定資産税での貢献)

安芸太田町加計地区の説明会で事業者は固定資産税の総額を30億円と見積もっていると公表しました。地方自治体は税収が増加すれば、増加分の75%の交付金が減額されます。すなわち30億円の固定資産税収入があれば、財政上実質7億5千万円の増収となります。設置機数の割合が定かではないため、単純に3自治体が当分したとすれば各市町20年間で2.5億円の増収になり、各年で平均年間1,250万円の増収となります。この数字は再生可能エネルギー設備への固定資産税の税制優遇措置による減税を考慮していませんので実際はさらに少なくなります。この固定資産税の計算には建設費を500億円として計算したとの事ですので、貴社の利益は20年間の売電売り上げ976億円から建設費を引けば約500億円の売上総利益が予想されます。公共の資源である風と自然の提供を受けておきながら各市町へのメリットはあまりにも少ないと言わざるを得ません。

(低い地域づくりへの貢献)

方法書説明会での配布資料には地域への貢献例があります。安芸太田町の温井ダム建設は約28年間の工事期間と総事業費1750億円でした。建設当時は多くの作業員が働き、町の活性化に貢献したようでした。しかし、工事が終わると作業員は去り、また元に戻りました。町の許容範囲を超える需要の増加はオーバーユースを招き、かえって全体の幸福度を低下させるとの指摘もあります。

 安芸太田町は移住者を獲得し、町の人口を維持させる定住促進を重要な施策としています。町長は「人口維持大作戦」を掲げ当選しました。風力発電のための風車は騒音・低周波・超低周波による健康被害が報告される中、定住を考える者にはネガティブな要素です。他地域の風力発電施設の周囲では住民が転居した事例も多くあります。町の人口維持施策にとってもブレーキとなります。自然資源を活用した観光振興と定住促進を施策の柱とする町です。しかし本事業により町の進む方向への悪影響が予想されます。

 同町は観光施策として「ヘルスツーリズム」を推進しています。いわゆる健康増進を目的とした旅行です。風力発電のための風車は騒音・低周波・超低周波による健康被害が報告される中、風力発電は健康増進と反します。事業実施想定区域はエコツーリズムのフィールドとして優秀であり、その自然資源を活用する団体は多くあります。景観上の問題と含め観光面で懸念があります。

●合意形成のプロセスについて

資源エネルギー庁による風力発電の事業計画策定ガイドラインには地域との関係構築の項において、計画初期から地域とのコミュニケーションが求められており、具体的な方法については自治体へ相談するように指示されています。地域との合意形成のプロセスを慎重に構築することを求めます。事業想定区域周辺の住民にも様々なライフスタイルがあり、誰しもが説明会に参加できるとは限りません。方法書説明会でも子供との時間や仕事の時間、大雪による交通障害など関心がありながら参加が難しい方が多くいらっしゃいました。様々な方法で住民の理解を得る方法の検討を求めます。

方法書には、配慮書に対する住民からの意見書には環境保全の見地からの意見が307通457件あったと記されています。これは他事業実施予定地と比較して格段に多く、地域住民の関心の高さの現れです。貴社の受け止めの見解を求めます。環境の保全の見地以外の意見も相当数あったと推測されます。配慮書・方法書に寄せられたすべての意見書の通数および意見の件数の公開を求めます。

方法書には環境の保全の見地以外の意見例が記載されていました。環境影響評価法の項目でなくとも、寄せられた意見は住民からのコミュニケーションであり、環境保全の見地以外の意見への回答とその公表を求めます。方法書説明会ではまだまだ事業への質問があり、時間の都合で住民の合意は得られていません。

十分なコミュニケーションのために、次の5点を求めます。

  • さまざまな規模や対象範囲への説明会や話し合いの機会の設定
  • 事業計画策定については、行政や地域住民、事業想定区域や事業により影響を

受ける団体の参画

  • 野生動物や植物については、地域をよく知る専門家を交えた事業計画の策定
  • 説明会で懸念の多かった土砂災害対策の策定については、地域をよく知る地質の専門家や防災士の参画
  • 景観については、事業想定区域周辺の歴史的・文化的な人文景観価値をよく知る地元住民と市町発行の町村誌(史)などの文献を協同精査・査読した上で、『景観資源の選定』に至る合意形成

●新型コロナウイルス感染症について

新型コロナウイルス感染症での混乱がある中での事業推進には抗議します。安芸太田町に限らず事業想定区域は高齢化率が高く、医療機関が脆弱な地域への配慮を求めます。配慮書への意見書では「感染症が再流行した際には、説明会の回数や調査の回数を減らすのではなく、感染症拡大が終息するまで事業を休止し、住民の安全を最優先しての事業実施をお願いします」と要請しました。しかし、今回の方法書説明会は東京などが緊急事態宣言下にありながら開催されました。住民の要望を無視する開催に抗議します。

貴社は主催する1月29日(仮称)新南大隈ウインドファーム方法書説明会、1月23、24日(仮称)中能登ウインドファーム方法書説明会は新型コロナウイルスの拡大のため中止にしています。2月初旬は感染の増加傾向に歯止めがかかり始めた時期ですが緊急事態宣言は3月10日現在も継続されています。また僅か2週間程度で感染の危険性が減少し説明会が実施できるようになったとするならば、環境影響評価法では「天変地異」のみ方法書説明会の中止は認められており、南大隈及び中能登の中止は要件を満たさず違法となるのではないでしょうか。

 環境影響評価法の趣旨を鑑みれば、事業の延期をしてでも多くの住民に事業の理解を促す必要がありました。事業の実施ではなく住民の安全と合意形成の重視を求めるとともに、中止された方法書説明会を延期として、新型コロナウイルスの流行の落ち着きを待って開催されることを求めます。

<事業の意義についてのまとめ>

方法書2-1は事業の根幹であり、私たちが環境への悪影響を許容する理由となるものですが、その内容と現実の相違は明らかです。上記の意見は環境の保全の見地からの意見ではないと捉えられていますが、環境の保全が必要になる状態を引き起こす事業であり、これらの意見は事業の正当性を問うものです。住民が事業の正当性を認めて、環境の棄損を受け入れるかどうかの議論が成り立ちます。その上で環境の保全の見地からの意見を述べ、よりよい事業計画が作られます。事業目的が間違っていれば事業実施の大義がなく、企業利益のために東京の会社が遠くの田舎の資源である風を搾取し、自然環境を破壊したとのそしりを免れません。住民と事業者が事業目的を合意して事業が実施されるべきです。

私たちは貴社が原子力発電事業を推進してきた事業者の責任として、福島の復興と福島第一、第二原発の廃炉への貢献を求めます。また核廃棄物処理技術の確立を最優先課題として、次の世代へ核のゴミ問題を残さないように求めます。石炭火力発電事業者として真に地球温暖化防止の取り組みに向き合うことを求めます。

その上で、貴社の持つ水力発電の技術を生かした小水力発電の開発と地産地消エネルギーの推進をお願いします。将来、私たちの地域とパートナーシップを構築し、未来のエネルギーの在り方を進め、持続可能な社会の構築を希望します。

●人と風車について

広島西ウインドファーム(仮称)風力発電施設配慮書に対して提出された意見書数は風力発電施設建設としては異例の多さでした。それだけ多くの住民は施設建設を心配しています。急峻な山地ゆえの土砂災害の危険。小学校や民家など近距離かつ、谷の反響音による低周波・超低周波(以下低周波という)被害への不安。心に刻まれた風景や稜線、山並みを喪失する恐れ。どれも住民の生活と将来に直接かかわる心配事です。環境影響評価は最低限実施すべきものが定められているに過ぎず、事業者が主体的に精密な調査・予測・評価を行い、より慎重な回避軽減と環境保全の方策を取るべきだと指摘します。方法書の中では住民の不安に対して向き合っているとは到底言えず、全く不十分であったと指摘せざるを得ません。より精密な調査を求めます。合わせてトラブルや災害があった際の協定の提示を求めます。

貴社はかつて国の特殊法人であり、現在も日本を代表する電力会社です。最低限の法令遵守ではなく社会的要請を満たし、他の風力発電事業者の規範となる環境アセスメントが求められています。

低周波被害について

安芸太田町加計地区の説明会において、貴社社員が「低周波の健康への影響はないと国も認めている」と虚偽の発言をしました。低周波からの健康被害を無いとする姿勢はかえって住民との不安を増長させ不誠実と言わざるをえません。低周波被害は低周波の長期間暴露による健康被害、不完全な調査方法による実際より低い評価、医学的アプローチをせずに被害者を無視している問題などがあります。低周波被害はこれからの新しい公害と捉えるべきです。

(長期間曝露による被害)

日本弁護士連合会が提出した「低周波音被害について医学的な調査・研究と十分な規制基準を求める意見書」では「低周波音被害は低周波音に長期間暴露したために生じる外因性の自律神経失調症候群である。疾病であるからには,その判断基準は,被害者の健康状態に目を向けた,医学的判断であるべきである」と指摘しています。同意見書では成蹊大学理工学部の岡田健氏の言葉として低周波音について「通常は,人体に影響することはありません。しかし,長時間にわたってこれに曝されると,頭痛や頭重,不眠やイライラ,肩こり,胸の圧迫感,息切れ,めまい,吐き気など多種多様の不定愁訴を訴える方が少なからずいます。そして,発生源と見られるものから遠ざけると,こうした症状が軽減したり,消えたりすることから,何らかの因果関係があることは明らかです」としています。

海外では2009年にニーナ・ピアポントがウインド・タービン・シンドロームとして風車による健康被害を明らかにしています。世界保健機構(WHO)は2018年、環境騒音ガイドラインを公表し、風力発電機(風力タービン)を新音源に加え、環境騒音による心臓血管系や代謝への影響、騒音暴露が健康へ及ぼす悪影響のリスクを定義するため証拠を体系的に再検討しました。日本でも1977年、西名阪自動車道の周辺で低周波音の健康影響が出る事件などがあり、低周波音と健康被害の影響を住民が不安視するのは当然と言えます。

(騒音としての風車)

環境省は2004年、低周波音問題対応の手引書をつくり参照値を定めました。しかし、環境省は「低周波音に関する感覚については個人差が大きく、参照値以下であっても、低周波音を許容できないレベルである可能性が10%程度ではあるが残されている」(2008年4月17日環境省水・大気環境局 大気生活環境室事務連絡)とし、10人に1人は影響がある可能性を認めています。参照値は室外機など定常的な低周波音を対象としており、風車の規則的な音はさらに影響が大きくなる点が考慮されていません。

「風力発電施設による超低周波音・騒音の健康影響」(2018年,石竹達也)では「風力発電施設から発生する騒音(可聴域・周波数20ヘルツ以上)は、居住環境の条件等で健康影響(睡眠障害)のリスク・ファクターとなる可能性が示唆された」とされています。この調査では風車(2.4MW×21基)から2,000~5,000mで風車音が聞こえる人が7%あり、先の環境省の事務連絡を裏付けます。「石狩既設風車の低周波・超低周波音測定と健康被害」(2017年,山田大邦)では風車の「平坦特性とFFT分析を使って測定し、風車の音は10ヘルツ以下の超低周波音領域に大きな音圧の風切り音とその倍音を持つことがわかった。この領域を過小評価するA特性で風車の音を扱ってはならないということである。また、国・環境省が用いる3分の1オクターブバンド法以上に周波数成分を分解できる12分の1オクターブバンド法によって風車の健康被害を解明すべきである。大型風車で羽の先端速度が大きい場合には超低周波音領域の音圧がさらに大きくなり、また超低周波音は減衰し難いので、健康被害が遠方まで及ぶ可能性がある」とし、現在の音の調査方法について疑問を呈しています。このように風車の騒音についての被害は認めらており、現行の調査方法では不十分であることは明らかです。本事業計画想定区域から3,000m以内に複数の配慮を有する施設があり、慎重な対応が必要です。

(実際に存在する被害者)

安芸太田町戸河内説明会で、事業者は「低周波音の苦情は事業所にきたことはない」と発言しました。しかし、貴社が運用する風力発電施設周辺に居住する住民を対象にした民間団体によるヒアリングでは複数の人が被害を訴えがあったと確認しています。方法書説明会では低周波音による健康被害の存在を認めない姿勢が明らかでした。被害を訴える方はどこに苦情を言えばいいのかわかりません。被害は個人差があり、因果関係の立証が難しく事業の妨害に捉えられる恐怖から、貴社へ直接苦情を訴えるのは心理的負担が大きいことが容易に想像できます。説明会に参加した住民の多くは、例え健康被害があっても事業者は黙殺するだろうと不安を増大させました。貴社は事業の実施により加害者になりえる可能性があります。まず被害者に寄り添い、医学的視点で症状を認める姿勢があって当然ではないでしょうか。

(低周波被害についてのまとめ)

環境省は低周波が健康被害をもたらす因果関係を示す知見は得られていない、との立場をとっています。しかし国連環境開発会議(地球サミット)」で採択された「環境と開発に関するリオ宣言」に、「環境を保護するため、予防的方策は、各国により、その能力に応じて広く適用されなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない。」(第十五原則)とあります。低周波被害に科学的可能性がないとする方が難しく、現時点で低周波と健康被害の科学的確実性が得られていないとしても、対策を怠ってはなりません。

したがって以下の4点の実施を求めます。

  • 建設前の騒音及び低周波の調査では、実際の状況とかけ離れ現実的ではなく評価項目として納得できません。実態調査として貴社が所有・運用する風力発電施設での医師による第三者ヒアリング調査の実施。貴社独自の環境アセスメント項目として調査・予測・評価を行い本事業での環境影響の回避に活用すること。
  • 事業想定区域から2,000mの範囲に、配慮が必要な施設1件、住宅等が1,428件存在するとしています。しかし、山間部の反響があること、既存とは異なる大型の風力タービンであること、かつ「風力発電施設による超低周波音・騒音の健康影響」(2018年,石竹達也)の調査を踏まえ5,000m以上の距離を500m単位で区切り、施設と住宅の分布を詳細にし、各スケールでの調査・予測・評価。
  • 建設後の調査では風車音の調査は平坦特性とFFT法を実施し、不十分な参照値ではなくポーランド基準を適用することを協定とし、基準を超えた場合は十分な対策と補償の約束。
  • 低周波音の長期間曝露に対する事業者の見解の明記し、調査・予測・評価と十分な回避策。

●土砂災害について

安芸太田町役場の標高は284mです。町内にある県内最高峰恐羅漢1346m、建設予定地の立岩山は1135mです。安芸太田町戸河内・筒賀は 中国山地の勾配が厳しくなる位置にあります。急峻な地形、脆い地質、そして近年多発する豪雨災害。風力発電施設建設予定地を見上げれば、誰もが大規模な工事に不安を感じずにはいられません。方法書説明会で土砂災害について指摘が多くありました。事業者は環境アセスメントでは土砂災害は取り扱わないとし、保安林解除等の手続きで適正に建設すると繰り返すだけでした。しかし保安林解除の手続きは土砂災害が想定されてなく、このような急峻な山の稜線部に幅6mを超える道路建設を想定した規制はありません。貴社はもともと国の特殊法人であり、現在も日本を代表する電力会社です。最低限の法令遵守だけではなく社会的要請を満たし、他の風力発電事業者の規範となる環境アセスメントが求められています。環境影響評価法に規定されていなくとも、事業者に求められる社会的要請として、十分な調査・予測・評価が必要なのは言うまでもありません。

(脆弱な地質)

安芸太田町の冬季は積雪が多く凍結をします。凍結による風化作用により侵食が進み地盤が不安定です。市間山-立岩山の尾根部に残るブナ林を中心に森林機能が地盤を辛うじて安定させていると推測できます。事業想定区域の脆弱な地質は森林による保護が必要で、森林の育成には尾根部の保護が重要です。しかし本事業では尾根部を伐採し道路を総長25km建設し、2000~3000 ㎡の範囲を最大36 箇所造成します。将来土砂災害の大きな要因となります。

事業想定区域周辺の岩は節理や複雑な亀裂が縦横に入っています。事業想定区域も同様と推測されます。風化が節理や亀裂に沿って進み、脆弱な風化帯が形成されています。専門家によれば事業想定区域には「含レキ泥岩」が広く分布しています。プレートの沈み込みに伴って破砕された構造を持つ岩石です。過去に破壊(脆性破壊)された岩体で、内部に細かい多数の亀裂を有し、風化すると急激に崩壊しやすくなる性質を持った岩石です。事業想定区域には風化した花崗岩や斑レイ岩が風化した粘土もみられ、地質の脆弱性と粘土の流出による長期的な水質の悪化も容易に想像できます。

(急な地形と断層谷)

事業想定区域は土砂災害の危険のある勾配15度以上の渓流が500箇所を超えて存在しています。登山も辛い程の急勾配で、谷沿いには浮石がゴロゴロとあります。落石の後も散見され、これらは土砂災害の危険を示しています。事実として事業想定区域に関わる地点では過去に大規模な土石流が発生した形跡や記録があります。

吉和から安芸太田筒賀は筒賀断層による断層谷です。断層谷は断層の影響で岩盤が脆くなっている可能性が十分にあります。本断層は活断層で、いつ地震が発生してもおかしくない状態です。事業想定区域の搬入道のためと思われる範囲には本断層を遮って道を作る計画になっています。事業者は本断層を冠山断層として記載し、学術的に重要な地形・地質ではないとし、評価の対象にしていません。しかし日本は地震の多い国であり、南海トラフ地震の発生源とも近い距離にあります。環境影響評価法の求めになくとも地震が十分想定され、土石流等の災害が十分に予想される地域では社会的要請として十分な調査・予測・評価と回避の方法が検討されるべきと言えます。

(道路と豪雨)

風車の建設のためには新たな道路の建設が必要で、幅4~6m(側溝を加えると5~7m)のなるべく直線の道を作る、と事業者も認めるところです。しかし道路建設に伴う山林掘削は斜面を不安定化させ、土砂災害の危険性を高めます。掘削により排出した土砂等は現地に盛土や埋土を行ない、仮置き場を設置すると説明されています。これらは地震や豪雨の際には崩壊しやすく土砂災害の発生要因と指摘します。不用意な山地開発がその後の土砂災害に結びつく事例は、山地が多く降水量の多い日本の多くの災害で経験してきたことです。

私たちが経験した「西日本豪雨」では、山の中に建設された道路からの表流水や排水不良を原因とする土砂崩壊、道路建設で行った谷埋め土砂の崩壊や法面の盛土の崩壊で土砂崩れや土石流が発生し、多くの人命が失われました。規模の大きな土砂災害(がけ崩れ・土石流災害)は大量の土砂流出を伴う洪水被害も引き起こすことは明瞭です。大量の土砂が下流の河床に堆積すれば河床の上昇も引き起こし、将来の太田川の災害にも結び付きます。近年豪雨の回数が増加し、時間雨量50㎜を超える短時間強雨は30年前の1.4倍となっています。広島県でも局地的豪雨は時間雨量80㎜を超える例もあります。建設された道路の排水不良、造成区域や盛土をした場所からの土砂の流出に対し、沈砂池や調整池で対応ができるとは考えられません。

(土砂災害についてのまとめ)

貴社の事業は土砂災害の危険性が高い地域にさらに危険性を増加させる事業です。しかし貴社は、地形改変を行うにもかかわらず、地形・地質については、「対象事業実施区域に(学術的に)重要な地形・地質がないため」として調査を行わないことを明記しています。保安林解除等の手続きで基準に沿った方法をとるとしていますが、土砂災害防止についての基準はありません。また通常の道路建設の基準は大きな土砂災害を発生させており、このような稜線部では十分と言えません。山林の大規模な掘削や作られた道による影響は、時間の経過とともに増大化します。事業実施期間の終了により貴社の責任がなくなるものではありません。

環境影響評価法にかかわらず、次の7点での調査・予測・評価を求めます。

  • 渓流全域についての基盤岩の地質調査はもとより、渓流や斜面の土砂や巨レキ等の堆積状況、渓流や斜面の 風化度についての地質調査を求めます。
  • 地震による建設した道路や造成した土地、残土の仮置き場の崩壊に伴う土砂災害の発生の調査・予測・評価十分な回避策の策定。
  • 工事によって掘削された土砂の盛土や埋め土は将来の土砂災害要因となる危険なものです。掘削された土砂の山中からの撤去。撤去の作業行程の明示。
  • 対象事業実施区域のうち、道路建設箇所ならびに風力発電機建設箇所についての詳細な地質の調査の実施。その際には、脆性破壊を起こした非変成の「含レキ泥岩」の詳細な分布と構造ならびにその風化度分布の明示。安全な道路工事を行えるよう慎重に配慮した計画の策定。特に風力発電機建設箇所については、ボーリング調査とともに少なくとも岩盤の亀裂や風化度の分布調査。尾根部での滑動等の危険性がないことを証明するとともに、岩盤の力学調査等を行い、支持構造物 の支持地盤が,支持構造物の安定に必要な強度を有することを証明すること。
  • 非変成の「含レキ泥岩」地帯の工事は避け、この地質の箇所が土石流の源頭部とならないような工事の実施。道路や風力発電建設場所からの排水が渓流に大量に流下することのないような工事をどのように行うかについての具体的な説明。
  • 事業予定地から発する渓流で、その上に道路や風力発電機を建設する場合は土石流の発生についてその渓流に応じた調査・予測・評価の実施。麓に土石流の特別警戒区域がある渓流には、その渓流の土石流の危険度に応じた砂防ダムの建設。
  • 残土の仮置き場は筒賀断層が X ランクの活断層であり険性が高いといえます。豪雨期も毎年訪れます。事業予定地内での残土の仮置き場設置行わず、他の場所にて安全な処分の実施。

●景観について

2004年に公布された景観法第二条に

2 良好な景観は、地域の自然、歴史、文化等と人々の生活、経済活動等との調和により形成されるものであることにかんがみ、適正な制限の下にこれらが調和した土地利用がなされること等を通じて、その整備及び保全が図られなければならない。

3 良好な景観は、地域の固有の特性と密接に関連するものであることにかんがみ、地域住民の意向を踏まえ、それぞれの地域の個性及び特色の伸長に資するよう、その多様な形成が図られなければならない。

とあり、良好な景観の重要性が示されています。事業者は地域の自然、歴史、文化、人々の生活経済活動、そして地域で継承される記憶について最大限尊重し、事業による影響を回避しなければなりません。方法書では地域の景観についての理解がなく、単に眺望点から地点を示すのみです。景観とは決してこの位置からどのように見えるのかが問題なのではありません。事業者は私たちの景観について、地域に寄り添い、住民へのヒアリングを丁寧に実施し、自ら景観が持つ意味を理解しなければ景観についての調査・予測・評価及び影響を回避または軽減の方策と取れないと考えられます。環境影響評価法の求めに従って日本を代表する電力会社である貴社は、他の事業者の見本になるような景観への調査・予測・評価を方法書に求めます。

(地域の記憶としての景観)

配慮書意見書で述べた通り、立岩山は古くから数々の文献に登場するよく知られた山です。観音信仰を持ち地域にとって歴史的にも重要な山でもあります。(「筒賀名所記」(1763年)、「松落葉集」(1768年)、「国郡志御用に付下調べ書出帳・上筒賀村」(1819年)、「芸藩通志」(1825年))

「芸藩通志」には「石窟 上筒賀村、立岩山上にあり、なかに実乗観音あり」と記されています。「山頂に実乗観音をまつってある石窟のある山が立岩山という名の山である」「1135m峯にある観音を、現在、筒賀の坂原、馬越、布原では「立岩の観音」と呼んでいる。」「吉和村側の村人にもこの峯に観音のあることはよく知られており、『ミノジの観音』と呼ばれている」「立岩山(1135.0m峯)へは、筒賀村坂原よりタテイワ谷の右岸へ入り、山頂の観音 に至る参道があって多くの村人が登っていたという」「観音信仰の盛んであった明治大正の頃は吉和村石原の教立寺裏より『高崎こうかん道』と呼ばれていた尾根道が付けられ観音まで続いていたが、現在はその跡すらさだかでない」。

以上のように、1135m峰の山頂付近に、石窟があり、観音像が祀られていました。戦後、過疎化とともに廃れてしまいましたが、古くより地域の信仰厚く、近代以降も盛んでした。筒賀だけでなく、吉和からも参詣者が多かった点も立岩山の重要性を示します。「筒賀村史」(2004年)には、「この立岩山の頂上には『実乗の観音』という絶壁があり、その下には観音も祀ってあるという」とあります。つまり、岩自体がかつては観音菩薩に見立てられ、その後、岩の麓に観音像の祠が安置された経緯が窺えます。

筒賀財産区は江戸時代の「入交山(いりあいやま)」から、1890年(明治23年)の「払い戻し裁判勝訴」、そして村有林節目の行事、さらには第五回朝日森林文化賞(現在の、明日への環境賞)受賞などに見られるように、近現代においての150年を越す景観づくり(特に林業景観)の歴史的文化的価値を持つ国内での稀有の景観資源です。筒賀財産区の構築・継承においての歴史的プロセスでは、「熟慮の記憶と記録」があります。「良好な景観は、地域の自然、歴史、文化等と人々の生活、経済活動等との調和により形成されるもの」(景観法第二条2)とはまさにこのことではないでしょうか。こうした振興や地域がかかわってきたプロセスは、地域の記憶として重要なものです。

(事業地域の景観の特長)

事業計画地域の広島市湯来、廿日市市吉和、安芸太田町一帯の西中国山地には群を抜く独立峰はなく、幾筋もの谷と尾根で構成されています。十方山や恐羅漢山、深入山山頂からの眺望は、なだらかな山並みが幾重にも重なり、女性的な優しい景観を見せます。

谷筋には古くからの集落が点在しています。そこから見上げると変化に富んだ稜線やV字谷の向こうに山並みが遠望できます。暮らしの中に風景がある環境です。蛇行する谷筋から見える稜線は、少し移動しただけでも大きく複雑に変化して、多様な風景が見られます。どの山の尾根筋なのか判断するのは困難なほど変化に富んでいます。激しく蛇行する太田川沿いの道路は、わずかに走っただけで方角が幾度も変わり、風景は大きく変化します。このため見えている稜線がどの山の稜線なのか判断するのは地元の人でも困難で、建設予定地の概略図からは風車が見えるかどうか分かりません。

景観は共有財産です。山に囲まれた地に生まれ育ち、暮らし、仕事をしている人にとって、毎日見ている身近な風景や稜線、山並みは、一人ひとりの心や意識の中に刻み込まれています。景観の価値は皆のものであると同時に、誰のものでもありません。地域住民、登山者、観光客の共有財産です。

(自然とのふれあいの場)

方法書記載の地図上においては、立岩山-市間山登山道表記は、山稜稜線筋だけの記載で、登山口からのルートが考慮されていません。記載ラインも市間山から立岩山へ向けての山稜筋途中までの表記となっています。登山道に関して高い経験値と深い造詣を有している地域内外の住民からヒアリングしたうえでの策定を求めます。

湯来地区における、①打尾谷のホタルの飛翔エリア ②湯来観光地域づくり公社が行う各種アクティビティにおける各フィールド ③駄荷エリアにおける、日の平山信仰の対象とされる日の平山 ④立岩・市間・十方山を結ぶ山岳修験や遊行者らの山道 ⑤熊崎城や駄荷城跡、周辺古墓群 ⑥善福寺裏手の山腹にある「石塁」の追加を求めます。

安芸太田町はヘルスツーリズムを通じて、自然と人のふれあいと癒しを町の方針としています。事業想定区域には認定セラピーロードはありませんが、健康被害の懸念がある風力発電施設が、森林セラピーに与える影響への調査を求めます。

(景観についてのまとめ)

受け継がれてきた景観の歴史に比べ、事業者が行うわずかな事業期間が私達の景観にどのように作用するのか、方法書の内容では調査・予測・評価ができないのではないかと思います。どのようにしたら影響を回避又は軽減できるのかすらわかりません。安芸太田町筒賀地区での説明会で市間山―立岩山ルートを一緒に歩こうとの呼び掛けに貴社の社員は前向きに検討すると答えました。眺望景観の評価基準のように、(水平見込み角)(俯角)(画面に占める人工物構成率)などの数値指標で測定評価できるものではなく、景観は地域に寄り添い、現地を歩き、歴史を知って理解できるものです。

そこで以下を求めます。

  • 事業責任者は市間山-立岩山などの事業想定区域にあるすべての自然資源を地域住民などとの訪問、踏査を実施
  • 方法書に示された眺望点だけでは少なく、風車が眺望されるすべての集落および山頂、国道・県道・林道の範囲を明らかにし、見え方のモンタージュ画像の作成、公開
  • 人と自然の触れ合いの場の選定及び調査・予測・評価、影響回避の方法の決定においては、ヘルスツーリズム関連団体・組織、ならびに自然保護のNPO諸団体、町内観光事業者、地元有識者などとの合同現地調査の実施
  • 景観にまつわる歴史、地元へのヒアリングを調査項目へ追加

●自然と風車について

 事業想定区域は県内屈指のブナ林・渓谷林を有し、過去には「たたら製鉄」による環境破壊(森林の皆伐)を免れ、西中国山地に生息する生き物の「箱舟」的地区として重要な一帯です。風力発電施設建設は当地を含む周囲の生態系に重大な影響を与えると危惧しています。

広範囲の稜線に立ち並ぶ風車は渡り鳥やコウモリの移動経路を分断します。風車建設のための道路は、人と離れて生息する動物たちにバイパスを形成し、有害鳥獣の人慣れや住宅区の侵入が考えられます。工事による影響は事業実施期間を超えて影響を及ぼします。長期的な影響は工事によるものか否か判断が困難です。事業想定区域は巨大な山塊であり、広範囲に自然度の高い森林が複数対象となっており、環境影響評価法が求める以上の入念な調査が社会的要請といえます。方法書に記載された調査では不十分であり地域を良く知る専門家の協力・指導を得ての調査・予測・評価の方法の策定を求めます。事業想定区域では植物も貴重な種が多数確認さており、両生類・魚類・昆虫類・蘚苔類・地衣類など含め入念な調査を求めます。

哺乳類

(コウモリ)

事業想定区域には配慮書意見書で示したとおり,本会会員により環境省が絶滅危惧種Ⅱ類に選定しているモリアブラコウモリ,ヤマコウモリ,クロホオヒゲコウモリなどの貴重なコウモリ類の生息が確認されています。近隣の山林には広島県により絶滅危惧Ⅱ類に選定されているヒナコウモリ,テングコウモリ,オヒキコウモリ,準絶滅危惧に選定されているニホンコテングコウモリ,モモジロコウモリ,ユビナガコウモリなどの生息が確認されています。以下の調査を求めます。

  • 方法書の6-43(321P)の調査地点の設定根拠として捕獲調査を落葉広葉樹林に1点設定したとありますが、建設予定地は、南北11km、東西6kmと広域であるので,少なくとも稜線において10箇所程度、谷筋や渓畔林においても同程度の捕獲調査の実施。
  • 捕獲方法についても,6-41(319P)にはハ-プトラップを使用する予定とありますが、ハープトラップでは高空を飛翔するヤマコウモリやヒナコウモリなどの捕獲は難しく、かすみ網を高所に設置する調査の実施。同時にアコースティックルアーの併用、音声調査の実施
  • 6-18(288P)の専門家への意見聴取は、本地域のコウモリ相についての見識が不十分であると推察される内容であると言わざるを得ません。配慮書意見書でも示した通り地元のコウモリ研究者の意見の採用
  • 建設予定地の付近に希少なコウモリ類が休息・冬眠に利用している鍾乳洞が存在しており,地元のコウモリ研究者の指導の下で適切な調査の実施
  • 建設予定地に風力発電機が建設されれば,南北11km,東西6kmの範囲内に最大高150m超の大型風車36基が立ち並び,全国的にも類のない風車群が建設されることになります。生息が確認されている希少なコウモリ類への影響は計り知れないと言えます。通商産業大臣意見をはじめ,環境大臣,広島県知事,広島市長からも指摘されている通り、複数の風力発電基の稼働による累積的な影響が懸念されます。そこで、希少なコウモリ類に対する累積的な影響の評価を具体的かつ慎重に実施
  • 建設予定地周辺の山林にはオヒキコウモリやヒナコウモリなど、集団移動するコウモリの生息が確認されています。これらのコウモリ類の渡りのルート上に巨大な風車が建設されれば、方法書でも予測されているように深刻なバットストライクが懸念されます。6-43(321)では音声モニタリング調査地点(風況観測塔に設置)が1地点のみです。2地点の風況観測塔及び建設予定の稜線部500m毎に観測地点への設置
  • 夜間調査に関し,コウモリはその種、季節によって活動時間帯が異なります。ロードセンサス的な調査では全容把握は不可能です。事業想定区域は複雑で多様性に富んでいるため、500mごとの定点を設け、それぞれの地点で夕暮れから明け方までの継続調査。録音された音声データは、地元研究者や日本哺乳類学会などの有識者に解析結果の確認を実施。

(モグラ)

方法書の生態系に係る注目種とその選定理由(6-60,338p)において、コウベモグラは当該地区の大部分をなす山地の森林環境よりも丘陵地の森林環境や農耕地を中心とした生態系を代表する種であるため非選定としたとあります。建設予定地周辺の山林には広島県により絶滅危惧に選定されているアズマモグラの生息が確認されています。広島県絶滅危惧Ⅱ類のミズラモグラが生息している可能性が極めて高いと思われます。モグラ類は風力発電機から発生する低周波音の影響を強く受けることが予想されるので、ミズラモグラ、アズマモグラを注目種として選定することを求めます。

(ツキノワグマ)

安芸太田町戸河内地区説明会でツキノワグマについて注目種とするようにと求め、アジア航測社員が検討すると回答しました。西中国山地個体群は広島県・島根県・山口県が連携して保全に取り組んでいます。西中国を中心としたいくつかの地域で個体群の絶滅が懸念されており(環境省、2014年)、国際的にも絶滅の危険性が高いと認識され、国際自然保護連合のレッドデータブックでは危急種に指定されています。本種は里への進出により人間社会との軋轢が生じ、人命や農作物との被害軽減と保護に苦慮しています。このような状態で風力発電施設建設によりツキノワグマの生息地の減少や人里への進出が懸念されています。

安芸太田町加計地区説明会で事業者は、自社の既存の風力発電施設ではクマが里に出るようになったとの報告はないと言いましたが、事業者の感覚的な意見ではなく、科学的な個体群の行動変化のモニタリングが必要です。人と共存しなければならないツキノワグマを注目種として、事業想定区域を主に行動する個体群の生態調査及び行動調査と予測・評価及び影響回避の方策と事業実施後のモニタリング調査を求めます。

(ヤマネ)

事業想定区域は国指定天然記念物ヤマネの生息が強く予想されますが、方法書では記載がありません。ヤマネは法律により保護が義務付けられており、慎重な調査が必要です。年間を通じて巣箱による捕獲調査を2,000か所以上で求めます。事業による影響回避の手段としてヤマネの移植が必要と思われます。しかし捕獲率が低いことからヤマネが退避できるよう慎重な伐採計画が必要です。移植したヤマネが生活するための落葉混成広葉樹林の育成を求めます。中腹部は杉の植林も多く、工事は落葉混成広葉樹林の十分な成長をまって実施しなければならないと指摘します。

(そのほかの哺乳類)

方法書6-41の自動撮影調査は生息種の概況を把握するには優れた方法です。しかし、通いなれたフィールドでさえ概況を把握するには1年を要するのが普通であり、わずか2晩のカメラ設置ではあまりに不十分と言わざるを得ません。各箇所に負の干渉が生じる恐れがあるため、最低でもそれぞれの調査は1週間以上の期間を開けて実施を求めます。調査地は建設予定の稜線のみとなっていますが、導入路をはじめ、工事期間中に土砂の流れ込みが想定される谷筋や、河川周りにおいても稜線部と同等の15~20か所の調査地点を設置することを求めます。

鳥類

(クマタカ)

事業想定区域周辺には7つがいのクマタカが生息し、繁殖を行っています。6-42(320ページ)には猛禽類調査を「1回当たり連続3日間とし、各月1回 ※営巣期(12~8月)の調査は1営巣期実施する(9回)」と記載されていますが、クマタカは隔年で繁殖するつがいが多く、1営巣期の調査ではクマタカの繁殖の確認、巣の発見は困難です。2営巣期に渡り調査を求めます。

各月1回3日間程度にこだわらず、繁殖ステージごとに適切な調査時期や頻度を選定し、できだけ多くの日数で調査の実施を求めます。視野図を作成するなどして、計画地内を飛翔または止まりをする希少猛禽類を見逃すことのないように定点を配置し、飛翔状況の正確な把握のためにレーザーレンジファインダーによる調査を求めます。調査により、クマタカのつがいのコアエリアの位置や範囲を把握し、風車の設置位置はコアエリアの外郭から少なくとも1km以上隔離させることを求めます。風力発電機設置想定範囲が3つに分かれているので、環境影響をそれぞれの計画地または想定範囲で評価を行うだけではなく、これらを一つの計画地として捉えて累積的な影響の評価を具体的かつ慎重に実施することを求めます。

(その他の猛禽類)

6-60(338)ページにある生態系に係る注目種とその選定理由について、オオタカとサシバは「当該地域の大部分をなす山地の森林環境よりも丘陵地の森林環境を中心とした生態系を代表する種であるため非選定とした」とありますが、近年オオタカとサシバは山地の森林環境においても繁殖する個体群がみられる、地域の専門家の調査によっても事業想定区周辺区域周辺でサシバとオオタカの生息が繁殖期に確認されています。オオタカとサシバも上位性の注目種として取り上げることを求めます。また風力発電機設置想定範囲が3つに分かれていますので、環境影響をそれぞれの計画地または想定範囲で評価を行うだけではなく、これらを一つの計画地として捉えて累積的な影響の評価を具体的かつ慎重に実施することを求めます。

(その他の鳥類)計画地とその周辺では、春および秋の渡りの時期に尾根筋を通過するハチクマ、サシバ、ハイタカ、ハリオアマツバメなどの多くの渡り鳥が飛翔しています。これらの鳥類の移動経路上に風車が建設されれば、貴社が自ら予測しているようにバードストライク等の深刻な影響が発生します。

方法書の6-42(320ページ)では、渡り鳥調査は春季3回、秋季3回(春季:3~5月、秋季:8~10月)とし、定点観察法で調査するとしていますが、計画地とその周辺は中国地方でも重要な鳥類の渡り経路となっていることから、貴社は方法書に記載した調査方法にこだわらず、適切な時期に適切な回数の調査を実施し、計画地およびその周辺を通過する渡り鳥全般の飛翔状況の詳細を明らかにするよう求めます。事業想定区域内外は夜間に渡る鳥類も多いため、レーダーを使用した夜間調査も実施することを求めます。

魚類・両生類・その他

方法書によれば大規模な掘削工事によりでる土砂の多くは盛土や埋土するとあります。すなわち谷筋を土砂で埋め、大型土嚢で堰き止る工事が予想されます。谷筋の渓流には環境省準絶滅危惧種のチュウゴクブチサンショウウオやサツキマス陸封型が生息しており大きな影響が考えられます。

大型土嚢は紫外線で劣化が起こり,徐々に砂泥が流れ始め、渓流の礫間を埋め、水生昆虫が消滅し、上位の生き物に徐々に影響が表れます。事業想定区域は脆弱な地質です。尾根筋並びに取付け道路の拡張に伴い大規模な掘削を行ない、広大な裸地を生ずる建設工事は,近年相次ぐ集中豪雨による沢崩れの原因になり、谷筋の生態系の崩壊のみならず、直接河川の汚濁につながり、カワネズミやアマゴ,オオサンショウウオに代表される水生生物に大きなダメージを与えます。一旦沢崩れが発生すれば、周辺で大規模な砂防工事の実施が必要となり、さらなる河川の汚濁を招きます。地元研究者や有識者から意見を集約し、慎重な地質調査を重ねて求めます。方法書では地域の専門家の助言や指導を受け、慎重な調査・評価・予測と長期的視野に立った回避の方策を求めます。

(オオサンショウウオ)

本流には国指定天然記念物オオサンショウウオの生息が確認されています。土砂災害が発生や河川への常態的な土砂の流入はオオサンショウウオの巣穴を埋め、徐々に生息域を狭めていると予想されます。このような影響は10年以上の時間をかけて現れ、気が付いた時には責任の所在を明らかにするのが難しく、対処もできません。長期的視点にたった科学的に合理性のある影響回避策を求めます。

植物

 植物相に重大な影響を生じさせるのは、風車の設置場所および風車を山頂へ運び上げるための道の設置です。運搬路のルート案の具体表示と、ルート上を踏査する調査を求めます。あるいはルートが示せず面的調査から始めるなら、準備書の前までにはルートと踏査ルートを重ねて示し、不足部分を補足調査するという代替策を求めます。立岩山-市間山塊は大きな山塊です。立岩山や市間山山塊の植物相は貴重な種が多数生育しています。運搬路が谷をまたぐと、谷を埋めるなど影響が下流に広がります。このような場所の特定と対象の沢筋の丹念な調査を求めます。

県のレッドデータブックでは蘚苔類や藻類、菌類、地衣類もリストアップされています。これらの分類群も調査対象分類群として調査を求めます。事業想定区域内に環境省絶滅危惧Ⅱ類のキレンゲショウマ,サルメンエビネ,ナツエビネや環境省準絶滅危惧のゲンカイツツジやエビネなどの希少植物があり,市間山の山頂部には広範なブナ林が見られます。シラカシやウラジロガシ林からモミ・ツガ林、ブナ林まで成立する地域であり、事業想定区域では最低1000の植生調査を行い、植物社会学的な表操作による群落区分を求めます。現地の植物相に詳しい専門家へのヒアリングや調査を求めます。また実際の調査では地域の植物に詳しい方のアドバイスや、調査への参加要請を求めます。