(仮称)広島西ウインドファームについてのさんけんの意見書を事業者へ提出しました。

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特例認定特定非営利活動法人三段峡-太田川流域研究会    

理事長 本宮 炎

                〒731-3813   広島県山県郡安芸太田町柴木1734

                              電話090-3421-3046

●はじめに

 わたしたちは本事業予定地である安芸太田町で活動する特例認定特定非営利活動法人です。本事業予定地(安芸太田町外も含む)は私たちの重要な活動フィールドです。そこで当団体会員(110名)および当団体が主催した本事業についての勉強会への参加者(75名)へのヒアリングを基に意見を述べます。

 配慮書の内容について詳細とは別途とし、まず縦覧方法の不備、事業目的への疑義、「人と自然の触れ合いの場」の欠落を指摘します。

配慮書の縦覧方法について

 配慮書の縦覧期間が短く、周知の徹底が不足し、内容を吟味する時間及び手段が限定的であり、十分な意見を住民が有したとは言えません。再度、配慮書の縦覧を要請します。

6月23日に縦覧が開始された配慮書は翌月の安芸太田町広報誌で住民に告知されました。7月5日に発送された広報誌が各家庭に到着するには7月10日前後になりました。意見書提出締切日の7月22日までには12日しかなく、役場の業務日は8日間でした。また、ホームページでの閲覧は制限が多く、勉強会でのヒアリングでも閲覧をあきらめたと答えた人が大半でした。改善を求めた広島市からのブラウザ制限解除の要請が、本事業者から断られたと報告があります。

(註:広島市からの訂正要請があり、上記を「広島市の要請に対して事業者は検討をすると回答をしたが、改善はされなかった。」と変更させて頂きます。)

 また安芸太田町役場を通じて求めた縦覧期間の延長願いも断られたとの報告があります。地域住民に周知され、閲覧し、意見を有するための時間と手段を確保するには不十分であり、環境影響評価法の求める住民意見が得られたとは言えません。特に安芸太田町における本事業予定地は公的財産区です。地域住民は十分に吟味し、子孫のために正しい選択をする必要があります。縦覧期間の延長拒否の理由が「FIT制度申請期限がせまっている」と本事業者が述べたとの報告があります。しかし、FIT制度の申請期限と本事業の環境影響評価の重要性には何ら関係がありません。

 したがって再度の配慮書縦覧期間の設定と周知方法の改善、閲覧方法の改善をお願いします。

事業目的についての疑問

 本事業配慮書第2章2.1の事業目的に疑問があります。

 日本政府による「生物多様性国家戦略2012-2020」には「生物多様性の維持・回復と維持可能な利用を通じて,わが国の生物多様性の状態を現状以上に豊かなものとするとともに,生態系サービスを将来にわたって享受できる自然共生社会を実現する」とあります。広島県「未来へつなげ命の環!広島プラン~生物多様性広島戦略~」(平成25年)では基本理念として「生物多様性がもたらす,豊かな恵みを将来の世代に継承できる人間と自然が共生する社会の実現」とあります。化石燃料から再生可能エネルギーの転換は期待されるところではありますが、他の方法による発電施設に比して、陸上風力発電所は発電量が少なく、生物多様性の上で県内有数の森林の棄損に対して、見合うものとは考えられません。生物多様性の棄損に対してCO2抑制の効果が十分ではなく、「第5次エネルギー基本計画」および「第4次広島県環境基本計画」の求めるところとは一致していません。

安芸太田町は自然環境を活かした定住(移住)促進や観光振興政策を進めており、自然資源への棄損の大きな本事業は、町の方針(第二次安芸太田町長期総合計画後期計画)にも反します。風車の建設がなされた地域では雇用及び風車建設に関わる資材は地域調達が生まれにくく、経済波及効果が少ないとの報告もあります。

 したがって本事業の目的である①地球温暖化防止、②国や県自治体の取り組みに寄与、③地域経済の発展及び活性化に寄与、については疑念を持たざるを得ません。

 そこで、①②③に対して本事業の寄与を具体的かつ詳細に提示をお願いします。

「人と自然の触れ合いの場」が事業実施想定であることの欠落

 本事業区域は私たちにとって重要な場所であり、風車と私たちの取り組みの並立は考え難いものです。

 本事業の事業実施想定区域の市間山‐立岩山はエコツーリズムのフィールドとして優秀であり、私たちも昨年よりフィールドの調査を開始し、エコツアープログラムの開発に取り組んでいます。また廿日市市吉和地区周辺もエコツーリズムの素材として優れており活用を検討しています。しかし、市間山―立岩山の稜線にある縦走ルートに作業道が設置され、風車が建設されれば、エコツーリズムのフィールドではなくなってしまいます。地域の山岳クラブや広島県山岳会、トレッキング愛好者から大切にされている市間山―立岩山、吉和の原生林に建設される作業道および風車が、これらの人々と共存する方法が配慮書では検討されていません。「人と自然の触れ合いの場」として周囲の自然資源について触れていましたが、事業実施想定区域そのものが「人と自然の触れ合いの場」であり、配慮書における不備と指摘します。

 先に要望した配慮書の再度の縦覧期間と合わせて、配慮書を再度作り直し、事業想定区域利用者との共存の方法を具体的かつ詳細に提示をお願いします。

 上記の通り、配慮書の縦覧方法、事業目的、「人と自然の触れ合いの場」として事業想定区域の欠落があり、配慮書として認められません。

 環境影響評価制度は「事業を実施するにあたって環境にどのような影響を及ぼすかについて自ら調査、予測、評価を行い、その結果を公表して国民、地方公共団体から意見を聴き、環境保全の観点から総合的かつ計画的により望ましい事業計画を作り上げていこうとする制度」であり、事業者のために、国民、地方公共団体が無償で協力しています。協力を求めるためには、真摯で開かれた態度が必須であり、住民が事業を理解し咀嚼する時間が必要です。決してFIT制度への申請期限を理由に事業を急ぎ、地域の重要な自然資源への影響を評価せず、環境保全が不十分な事業としてはなりません。また「事業者は配慮書の説明会はコロナウイルス感染症拡大の影響で開催しない方針」と安芸太田町の担当職員から聞いています。新型コロナウイルス感染症での混乱がある中での事業推進には抗議いたします。

 また安芸太田町に限らず事業想定区域は高齢化率が高く、医療機関が脆弱な地域への配慮も合わせて今後も十分な地元説明会の開催をお願いします。感染症が再流行した際には、説明会の回数や調査の回数を減らすのではなく、感染症拡大が終息するまで事業を休止し、住民の安全を最優先しての事業実施をお願いします。

●住民との合意形成プロセスについて

 事業想定区域は貴重な生態系が残る太田川の源流域であり、流域全体に広く影響が考えられます。急峻な斜面での幅5m以上の道路の建設や、川沿いの道の拡張工事など配慮書では直接的な河川の改変は行わないとありますが、土砂や流木の流入など大きな影響が考えられます。観光や漁業など太田川の環境変化の影響を受ける事業者も多くいます。地域住民との合意形成が重要であり、そのために事業想定区域が地域住民および広島市にとっての源流域であり大切な場所であると理解してください。そのために情報公開の姿勢を改め、環境影響評価のみならず事業内容を公開し、住民の判断材料を提示してください。

源流の森であり、太田川への影響があることについて

 事業予定地には貴重な自然環境を保持しており、太田川の源流の森であり優先的に開発を避けるべき場所です。

事業想定区域は水源及び災害防止のための重要な地域です。太田川は水力発電用水および生活・工業用水であり太田川下流域はもとより、瀬戸内海の島しょ部にも生活用水を供給しています。水源地の森が開発されることによって、山腹崩壊を伴う太田川への大量の土砂流入、水供給量の変化、にごり・水質悪化などが懸念され、河川環境だけではなく、地域住民の生活や伝統文化の継承が脅かされます。私たちは源流域での大規模な開発は慎重であるべきと考えています。

 風車建設にかかる影響の複合的な調査の実施し、詳細かつ具体的な回避のまたは軽減の方法を提示し、太田川上・中・下流域での合意形成を行ってください。

情報公開の姿勢について

 住民との合意形成には開かれた態度と情報公開が必要ですが、本事業においては情報公開の姿勢に疑念を感じています。

 風力発電建設事業では多くの事例で情報公開での不適切さが指摘されています。私たちも本事業とは別の近隣地域での風力発電所建設計画の環境影響評価の過程で不便さを経験しました。そこでは配慮書のコピー禁止やパソコン上での使用率の低いブラウザのみでの閲覧、印刷の禁止などがありました。本事業と同じです。環境影響評価法では「国、地方公共団体、事業者及び国民は、事業の実施前における環境影響評価の重要性を深く認識して、この法律の規定による環境影響評価その他の手続が適切かつ円滑に行われ、事業の実施による環境への負荷をできる限り回避し、又は低減することその他の環境の保全についての配慮が適正になされるようにそれぞれの立場で努めなければならない。」(同法第3条)とありますが、事業者の情報公開や説明の不足があっては住民の立場として同法の求めを満たせません。

 十分な縦覧期間の設定と周知、縦覧場所の増設およびコピーの解禁、インターネット上での閲覧制限の解除と印刷の自由をお願いします。また住民が理解し、アクセスできるよう丁寧かつ様々な方法(説明会や説明動画の作成公開等)をお願いします。

試算の公表について

 本事業に関わる具体的な試算の公開を求めます。

 本事業の実施は環境への影響を及ぼします。地域が合意するためには環境への影響と事業の社会的貢献(地域貢献を含む)を比較検討しなければいけません。私たちの試算での本事業の発電量は、最大出力154,800kw、設備利用率20%とした場合、当該地域の電力会社である中国電力の2018年売電量実績の0.5%となりました。事業実施想定区域の自然の価値と比較すればあまりにも少ないと言わざるを得ません。またNEDO海外レポートNO. 1021によればフランスの持続可能な環境連盟(FED)は風力発電が「二酸化炭素の排出削減にはあまり貢献しない上、化石燃料の消費増をもたらす」としています。私たちが中国電力に確認したところ「風力発電の影響によって、化石燃料の使用量を変化させることはなく、過去太陽光発電を含む自然再生エネルギーによって化石燃料の使用量が変化したことを示す根拠はもっていない」との回答を得ました。

 詳細な二酸化炭素削減の実績の試算と根拠、売電による売り上げ、固定資産税、維持管理費など事業の概要が提示され、環境への影響を天秤にかけ、地域としてどれ位の規模であれば受け入れられるのかが判断できます。環境への調査と共に本事業に関わる具体的な試算を求めます。

 本事業による合意形成の対象は事業実施想定区域周辺の住民や事業者と共に、中・下流域も対象と考えられます。様々なライフスタイルがあり、誰しもが説明会に参加できるとは限りません。私たちが主催した本事業についての勉強会でも子供との時間や仕事の時間など、関心がありながら参加が難しい方が多くいらっしゃいました。様々な取り組みで住民の理解を得る方法を検討してください。

 また環境影響評価と事業概要の情報公開を合わせ、住民が正しく判断できるように努めてください。

●人と風車のこと

 本事業により私たちの暮らしに、風車の建設工事および風車の運用、風車の撤去と原状回復までに様々な影響が考えられます。建設前の環境影響評価の充実や、万が一のトラブル・災害があった際への協定や約束があって住民理解が得られます。住民が望んでいない「迷惑施設」である風力発電所建設では住民の不安や心配に対して最大限に向き合い、真摯な対応を求めます。

災害の危険性・災害があった場合の責任や改修の責任について

本事業想定区域は災害の危険の高い山間地であり、風車の建設に不適当であると考えます。

 従って災害への対策を十分にし、流域に関わる住民や事業者からの理解が必須です。太田川は同じ流域面積の河川に比べると相模川の2倍、紀ノ川、旭川の1.5倍の年平均流量があります(河川現状調査より)。山林面積は81.2%と他の河川に比べて山林が多く、河川勾配も急です。また真砂土の山も多く斜面崩壊のリスクが高い流域です。道の造成や風車建設に伴い、崩落の危険増大の不安があります。地域だけに留まらず、開発・管理業者にとっても大きなリスクをもたらす地域であると指摘します。道路の拡幅工事は、住居の立ち退き、斜面の切り出し、橋の架け替え、トンネルの堀直しなど大規模な工事が想定されます。治水上の砂防のために支障や急傾斜地の崩壊による災害、太田川への相当量の土砂流入の恐れがあり、地域住民の生命保護や太田川の水質保全の観点からも開発には慎重であるべきと指摘します。事業想定区域は過去に何度も土砂災害を起こしています。工事による山頂の裸地化や大規模な運搬道の影響と、近年の線状降水帯による甚大な被害は私たちの記憶に新しく,2018年には死者・行方不明者が143名に至る西日本豪雨災害を経験しました。山間部の森林破壊による保水力の低下も指摘されています。本事業により崩落や土砂災害の危険性の増加が考えられます。

 風車の撤去・災害などによる道路・河川の復旧について、大きな道をつくればそれだけ側面を削り急峻な地形になります。安芸太田町でコンクリートや金網で補強をしてある道路側面であっても崩落・土砂崩れにより道などへの落石や土砂の流出が頻繁にあります。2018年には国道191号で豪雨にともなう落石により死者が発生しました。風車建設のために作られた道路が自治体へ移管される事例もあります。危険性が高く住民にとって必要性のない道路の管理はできません。また既存の道路の拡張により災害の発生する確率が増加します。風車建設のために無用な災害リスクと復旧のための費用が発生する事態がないように道路の安全性確保に努めてください。

 方法書以降は慎重な評価と、予想される自然災害への対処、道路拡張などによる災害

リスクの増加への対処を具体的かつ詳細かつ科学的に提示してください。そして土砂災害や道路の崩落などがあった場合の責任の所在や、風車撤去の保証などと合わせて地域住民との合意形成をお願いします。

健康被害の危険性について

 騒音及び低周波による健康被害について不安があります。環境省は「感覚閾値以下の音は人の生理に悪影響を与えない」と考えているようですが、実際には多くの方が苦しんでいます。環境省「低周波問題対応の手引き」の欠陥を指摘する専門家も多数存在しています。

 環境省は平成28年には「風車騒音は聞こえない超低周波音でなく聞える騒音の問題として扱う」との提案があったようです。長周新聞(2018年2月8日)では「石狩既設風車の低周波・超低周波音測定と健康被害」を引用しながらこの問題を紹介しています。同新聞では論文の結びを紹介し「平坦特性とFFT分析を使って測定し、風車の音は10ヘルツ以下の超低周波音領域に大きな音圧の風切り音とその倍音を持つことがわかった。この領域を過小評価するA特性で風車の音を扱ってはならないということである。また、国・環境省が用いる3分の1オクターブバンド法以上に周波数成分を分解できる12分の1オクターブバンド法によって風車の健康被害を解明すべきである。大型風車で羽の先端速度が大きい場合には超低周波音領域の音圧がさらに大きくなり、また超低周波音は減衰し難いので、健康被害が遠方まで及ぶ可能性がある。」としています。

 日本弁護士連合会が提出した「低周波音被害について医学的な調査・研究と十分な規制基準を求める意見書」では「低周波音被害は低周波音に長期間暴露したために生じる外因性の自律神経失調症候群である。疾病であるからには,その判断基準は,被害者の健康状態に目を向けた,医学的判断であるべきである」と指摘しています。また同意見書では成蹊大学理工学部の岡田健氏の言葉として低周波音について「通常は,人体に影響することはありません。しかし,長時間にわたってこれに曝されると,頭痛や頭重,不眠やイライラ,肩こり,胸の圧迫感,息切れ,めまい,吐き気など多種多様の不定愁訴を訴える方が少なからずいます。そして,発生源と見られるものから遠ざけると,こうした症状が軽減したり,消えたりすることから,何らかの因果関係があることは明らかです。」としています。 

 低周波音による被害が報告され、専門家の指摘もある以上、環境省の基準をもとに「感覚閾値以下の音は人の生理に悪影響を与えない」として事業を実施には住民としては合意できません。

 配慮書では騒音・超低周波音の予測を「風力発電所の環境評価のポイントと参考事例」から事業想定区域の2km圏内を最大としています。しかし上記の参考事例では風車の巨大化、山地の反響する地形、複数の風車の累積、高速道路などの累積は反映されていません。調査の範囲を騒音は最低であっても5km、超低周波音は最低でも10kmの範囲での具体的なかつ詳細かつ科学的な環境保全措置をお願いします。また万が一、騒音および超低周波音による健康被害が発生した場合の対応マニュアルの提示をお願いします。

観光面・移住者の減少・地域の疲弊への影響

 安芸太田町は自然資源を活用した観光振興と定住促進を施策の柱とする町です。しかし本事業により町の進む方向への悪影響が予想されます。

 安芸太田町長期総合計画では目指す将来像を「豊かさあふれつながりひろがる安芸太田町」として「県内最高の恐羅漢山をはじめとする山々に囲まれ、美しい自然環境とともに産業や暮らしを築いていてきました」としています。私たちの町を囲む山々の景観と自然環境はこの町にとって重要です。風車による景観の改変や自然環境の棄損は町の目指す姿と反します。また長期総合計画後期基本計画策定の際の住民アンケ―トには町の誇りに大半の住民が「自然環境・景観」と上げています。

 同町の観光施策として「ヘルスツーリズム」を推進しています。いわゆる健康増進を目的とした旅行です。風力発電のための風車は騒音・低周波・超低周波による健康被害が報告される中、風力発電は健康増進と反します。また事業実施想定区域はエコツーリズムのフィールドとして優秀であり、その自然資源を活用する団体は多くあります。景観上の問題と含め観光面での懸念があります。

 同町は移住者を獲得し町の人口を維持させる定住促進を重要な施策としています。新町長は「人口維持大作戦」を掲げ当選しました。風力発電のための風車は騒音・低周波・超低周波による健康被害が報告される中、定住を考える者にはネガティブな要素です。他地域の風力発電施設の周囲では住民が移住をした事例も多くあります。町の人口維持施策にとってもブレーキとなります。

 本事業により地域の疲弊が心配されます。風車が定住促進にネガティブ、若しくは影響がないか、全国の事例を調査し報告をお願いします。またヘルスツーリズムとの整合性のために、仮に風評被害であったとして、ネガティブイメージを払拭し、健康増進と並立するための施策を詳細かつ具体的に提示ください。

歴史・信仰・人と自然の触れ合いの場 

 立岩山-市間山区間は配慮書では触れられていませんが、ブナ林を縦走できるトレッキングコースとして「人と自然の触れ合いの場」です。また立岩山は歴史上、信仰の対象となっており地域にとって重要な山であり十分な配慮が必要です。

 「分県登山ガイド 広島県の山」(山と渓谷社)には市間山、立岩山が紹介されています。地域の団体が道を整備し、案内板を設置しています。町内の登山クラブの利用もあります。インターネットでの検索では同ルートの登山活動記録が紹介され、地域内外の方の愛好がわかります。著名なトラベルセラピスト清水正弘氏からは「妖精が舞う」と評されるブナ林を通るルートは県内屈指です。

 また歴史的にも立岩山は古くから数々の文献に登場するよく知られた山です。(「筒賀名所記」(1763年)、「松落葉集」(1768年)、「国郡志御用に付下調べ書出帳・上筒賀村」(1819年)、「芸藩通志」(1825年))観音信仰を持ち地域にとって歴史的にも重要な山でもあります。『芸藩通志』には「石窟 上筒賀村、立岩山上にあり、なかに実乗観音あり」と記されています。この記述から、はっきりと「山頂に実乗観音をまつってある石窟のある山が立岩山という名の山である」と読み取れます。

  ・1135m峯にある観音を、現在、筒賀の坂原、馬越、布原では「立岩の観音」と呼んでいる。

  ・吉和村側の村人にもこの峯に観音のあることはよく知られており、「ミノジの観音」と呼ばれている。  

・立岩山(1135.0m峯)へは、筒賀村坂原よりタテイワ谷の右岸へ入り、山頂の観音 に至る参道があって多くの村人が登っていたという。

・観音信仰の盛んであった明治大正の頃は吉和村石原の教立寺裏より「高崎こうかん道」と呼ばれていた尾根道が付けられ観音まで続いていたが、現在はその跡すらさだかでない。

 以上のように、1135m峰の山頂付近に、石窟があり、観音像が祀られていました。戦後、過疎化とともに廃れてしまいましたが、古くより地域の信仰厚く、近代以降も盛んでした。筒賀だけでなく、吉和からも参詣者が多かった点も立岩山の重要性を示します。

「筒賀村史」(2004年)には、「この立岩山の頂上には『実乗の観音』という絶壁があり、その下には観音も祀ってあるという」とあります。つまり、岩自体がかつては観音菩薩に見立てられ、その後、岩の麓に観音像の祠が安置された経緯が窺えます。「松落葉集」には、山頂の岩の挿絵とともに、和歌が添えられています。

「花と見ていざ行見むとおもひ立 いは山の端にかかるしら雲(恭種)」

「打見ればそれとしられて炭竃の けぶりたへせず立つ岩の峯(洞明)」

市間山―立岩山は地域が歴史的に信仰、また名所地としてきました。市間山-立岩山(1135m峰)山頂付近の景観には、十分な配慮が必要であり、具体的かつ詳細に明らかにされるよう要望します。

 事業実施想定区域である上記の山は「人と自然の触れ合いの場」であり、重要な地域信仰の場でもありましたが、配慮書には欠落しています。従って配慮書として不十分であり配慮書の再度の提出を求めます。

 本事業により私たちの生活は想像以上の影響があります。また歴史・文化・自然資源は私たちだけのものではなく、次の世代からの預かり物とも言えます。私たちの歴史・文化・自然資源・生活への「影響をの回避できる」とする根拠を具体的に提示し、住民への理解を得ての事業実施をお願いします。

●自然と風車のこと

 本事業の事業想定区域は生態系に重大な影響を与えると危惧しています。

 広範囲の稜線に立ち並ぶ風車は渡り鳥やコウモリの移動経路を分断します。風車建設のための道路は、人と離れて生息する動物たちにバイパスを形成し、有害鳥獣の人慣れや住宅区の侵入が考えられます。

 事業想定区域は県内屈指のブナ林・渓谷林を有し、過去には「たたら製鉄」による環境破壊(森林の皆伐)を免れました。西中国山地に生息する生き物の「箱舟」的地区としてもっとも重要な一帯です。

 植物も貴重な種が多数確認さており、両生類・魚類・昆虫類・蘚苔類・地衣類など含め入念な調査をお願いします。

動物について

 本事業の事業想定区域は貴重な動物の存在が確認または予想されています。ヒアリング調査は哺乳類とコウモリのみでありました。特にコウモリは現地を知る人のコメントとは思われず、哺乳類・コウモリ・両生類・昆虫・魚類についても適正な人物へヒアリングし、再度配慮書の提出を求めます。

 事業想定区域は天然記念物のオオサンショウウオやヤマネの重要な生息地と考えられます。ツキノワグマを含む、様々な貴重な種が人と接する機会のすくない山奥に暮らしていると考えらます。

 事業実施想定区域内に天然記念物のイヌワシや環境省絶滅危惧ⅠB類のクマタカが生息し,事業実施想定の南部は環境省準絶滅危惧のハチクマの渡りのルートとなっています。環境省絶滅危惧Ⅱ類のモリアブラコウモリやヤマコウモリ,クロホオヒゲコウモリなどの生息も確認できました。事業による影響について影響予測が難しい動物ですので、影響回避に向けた綿密な調査をお願いします。

環境省絶滅危惧ⅠB類のイシドジョウや環境省絶滅危惧Ⅱ類のアカザ,オヤニラミなどの生息が確認されています。搬入路の造成による生息河川の汚濁等による影響が懸念されます。

 本事業による環境影響を適正に評価し、影響の回避または軽減の方法を具体的かつ詳細かつ科学に明らかにしてください。

植物について

 立岩山-市間山塊は大きな山塊です。立岩山や市間山山塊の植物相は貴重な種が多数生育しています。谷ごとの丁寧な調査を行ってください。また県のレッドデータブックでは蘚苔類や藻類、菌類、地衣類もリストアップされています。これらの分類群も調査対象分類群として調査を行ってください。

 事業実施想定区域内に環境省絶滅危惧Ⅱ類のキレンゲショウマ,サルメンエビネ,ナツエビネや環境省絶準滅危惧のゲンカイツツジやエビネなどの希少植物があり,市間山の山頂部には広範なブナ林が見られます。シラカシやウラジロガシ林からモミ・ツガ林、ブナ林まで成立する地域であり、立岩山‐市間山で最低でも300の植生調査を行い、植物社会学的な表操作による群落区分をお願いします。配慮書には植物へのヒアリングがありません。現地の植物相に詳しい専門家へのヒアリングや調査を行ってください。

 ヒアリング調査の結果と合わせて、貴重な植物群落に対する風力発電機の設置のための造成による影響を軽減する方法を具体的かつ詳細かつ科学的に書き込んで配慮書を再度提出されることを要望します。また実際の調では地域の植物に詳しい方のアドバイスや、調査への参加要請をしてください。

本事業による工事および付帯工事によって大規模な生態系破壊が予想されます。現地及び周辺地域の陸上,水生の動・植物にどのような影響が及ぼされるか,配慮書では明らかにされていません。風車の設置後に野生動・植物の個体群の孤立、分断化が促進され、野生生物の絶滅を早めます。本事業による生物多様性の棄損に対して,どのように配慮されているのか,具体的かつ詳細かつ科学的な説明を求めます。

●まとめ

 本事業では定格出力4,300kwの風車を36基設置が計画されています。事業想定区域のような場所にこれ程の巨大な風車が数多く立ち並ぶ事例はほかにありません。風車は巨大になればなるほど、数が増えれば増えるほどに、環境への影響が大きくなります。類似の事例がない以上、慎重の上に慎重を期した調査・検討を経て、住民の合意を形成してください。実際に建設されて起きる被害やトラブルの対処方法も合わせて作成し、万が一の事態にも備えて、その内容を具体的かつ詳細に提示してください。

科学的根拠にもとづく回避の方法の提示

 配慮書にはすべてに「今後の手続きにおいて以上を着実に実施することにより、事業による重大な影響の回避又は低減ができる可能性が高いものと評価する」とコピー&ペーストされていますが、すべてにおいて科学的根拠がありません。配置等の検討だけで環境影響が回避または低減できる裏付けが全く示されておらず、論理的に整合性がありません。方法書以降では、すべての重要な植物、植物群落、動植、河川への影響、災害や騒音・低周波被害・景観・触れ合いの場に対して詳細な事前・事後調査を実施して、綿密な影響評価をお願いします。

住民の合意形成の方法

 再生可能エネルギー電力への期待は高まっていますが、その導入にあたって自然破壊が懸念される巨大建築では「地球環境の保全への貢献」にはならず根本的に見直しを図るべきです。自然環境への負担が少なく、地域への貢献度が高い地域循環型エネルギーの形成への取り組みを望みます。安芸太田町が目指している観光に重点を置き、人口維持を実現しようとする取り組みは、一時的な事業では達成できません。むしろ賛成・反対による町民意見の分裂・分断、地域感情の悪化、自然環境志向型の移住者の敬遠・町外転出などマイナス要素の増加が懸念されています。

 本事業による住民との合意形成プロセスは、事業者による丁寧で開かれたものでなくてはなりません。風車の運用や建設のための工事により地域は大きな負荷を強いられます。FIT制度による電気料金の負担は中国電力管内全体で負担を強いられます。また建設にあたって補助金などの公的資金が投入されているのであれば、納税者として国民全体が負担をしています。公共的意味合いの大きな事業と言えます。地域との合意形成は丁寧かつ慎重にお願いします。特にこの度の配慮書のような専門的なものは私たちのような一般の住民にはわかり難いものです。住民の理解を助ける工夫と咀嚼する時間を十分にとってください。

 また新型コロナウイルス感染症への対策は万全を期してください。事業想定区域は高齢化率が50%を超え、医療機関も脆弱です。丁寧で開かれた合意形成と並立するためには新型コロナウイルス感染症流行の期間は事業を休止し、終息後の再開をお願いします。また調査員の移動も高いリスクが想定されます。新型コロナウイルス感染症の終息を待って調査を実施してください。またFIT申請期限を理由に上記の対策がおざなりにならないように強く求めます。

結論

 本事業配慮書には誤字脱字を含め、さまざまな不備が認められました。他の事業体の作成した配慮書と比較しても質・量ともに相当劣るものであったと指摘いたします。また住民への周知や理解のための努力がなく、縦覧期間の延長をFIT制度申請期限のために断ったことなど、事業者の姿勢として問題があると言わざるを得ません。また科学的根拠に基づかない結論のコピー&ペーストは事業者への信頼を損ねる行為であると指摘します。

配慮書第2章2.8にある「複数案の設定について」では「本事業は、風力発電施設の設置を前提としており、ゼロ・オプションの検討は現実的でなく、対象としない」とあります。設置が前提であるのは事業者としては当然で、なんら理由になっていません。環境への影響が回避または許容できる範囲まで軽減できなければ、ゼロ・オプション(事業を実施しない案)も当然に検討を求めます。

したがって、上記およびその他提出された意見の指摘を十分に考慮し、科学的な根拠を加え、配慮書を再度書き直し、再提出を強く要望します。